テジナの泉

手品関係のほぼ自分用備忘録として。

細部に宿る君の名は。

『君は細部に宿る』,うたかたアレンジメント(あぶく),2021,書籍

 

マジックマーケット2021・春に頒布された、あぶく(@awawann)さんによる作品集です。

数少ない実体本です。それだけでテンション上がりますね。

 

数年前に『小さなライジングカード』という作品も発表されております。私はこの作品を目にしてなかったのでどのようなものかは分かりませんが、作者ご本人が「面白いなコレ(2016年のつぶやきより)」と仰っているので、面白いのだと思います。近いうちに再販される……と思い込んでましたが、気のせいでした。もし出たら買います。

 

 

さて、内容ですが……よかったです。

 

まえがきで、技法や手品は属人的なものであり、だからこそ細部に宿るのは「君」が宿るのだという考えが示されておりますが、いやそうだよなぁと頷くなどしました。

そんな細部に宿った「君」、つまりあぶくさんを、この本では読むことができます。

 

技法やトリックには、それを考案した考え方やこだわりがきちんと詳しく記載されており,またクレジットもしっかりと書かれています。

技法のTIPSのようなものが多いですが、どれも面白く、やってみたいなぁと思わされるようなもので、説明もわかりやすいです。注釈芸もあります。天地魔闘!

 

なお、最初にテジナ皇帝ことこざわまさゆきさんの推薦文が2ページにわたり書かれています。それによるとあぶくさんは手品が上手く、会ったら「なんか見せてよ!」と言うと良い、などと某スペイン人マジシャンに言うようなことが書いてありましたので、実際にお会いしたらみんなで言いましょう。

(マジケ会場で見せてもらいましたが,実際お上手でした……細部宿ってました……)

 

1番好きなのはやはり「集合に向かう地点の赤」。でも「シリンダー&コインのデチューン」もいいのですよねーー。

 

 

以下個別作品について。

 

 

・The Stage "Finger"

カラーチェンジのための前動作としての、ボト○パームの方法。カラーチェンジの一連の流れとしての方法が、わかりやすく簡潔に解説されています。

カラーチェンジのため、とはなっていますが、普通にボト○パームの方法のひとつと考えていいかなと思います。割と簡単風味です。

 

・袖の下から/F.F.F.

ラテラル○ームとトップ○ームとねこの比較、発表数やその年代を検討しつつ、ラテラルの使いにくさを改善しつつ、うまくコントロールやその他技法に応用しようとする試み。おもしろい。

これが結構詳細で,図もたくさんあってわかりやすいです。上手いことつかえたら楽しそう。

 

それとこの技法を使った手順が一つ解説されています。テジナ人なら知らぬ人はいない(嘘)、あのexcellent_elegantな作品集から演出が引用されてたりします。なお解説中に解説文がバグります。

 

・煌めきのシャトルパス

某ショップのつよつよコラムでも触れられたことのある、デビッド・ロス氏の「本当の」煌めくシャトルパスについて触れつつも、筆者さんなりの「煌めく」シャトルパスの方法。

 

これが1番技法の中では練習したい気持ち。

「コインは3度輝くっ……!!」

みたいなナレーションが聞こえてきそう。

 

煌めかせてぇ……!

 

・The Apogee Kick

コインのとある発射技法。

ちょっと手が痛くなるんですけど、自分のやり方が変なのかもしれない……

 

・シリンダー&コインのデチューン

「元々設計されていたものより性能を落とす」ことで改案、というより、手品プロットを自分にチューニングしていくという発想で作られた手順です。

 

この考え方は僕は非常に良いと思っていて、元のトリックをそのままやるのももちろんとても良いことなのですが、自分で考えずに「それが素晴らしいのだからそれをやっていればいい」というのでは、テジナ界は発展しなかったと思います。そして、この本のテーマにもありますが、手品を自分にフィットさせていく、フィットする手品を考えられることが、すごく素敵だと思っています。

自分もそういうことがきちんとできたらいいのですが。

 

無論、本文でも触れられているように本当に「デチューン」、改悪となってしまうこともあるでしょうが、そうやって試行錯誤をしていくことはとても大切なことだと思うのです。

 

ということでこの手順にもチャレンジを……あっ、ぐぬぬ、思ったよりむずい……

 

・集合に向かう地点の赤

解説見るより先に演技を見たいし、見てほしいやつです。普通のトライアンフをするのですが、なぜかマットには余計なものがあり……

 

やってみると結構難しいです(自分には)。

ちょっとタイミングや手の動きをしっかり抑えないとなぁと思います。

最後のおまじない、も面白い……!

 

アフターノーツに書いてあったことに震えるなどしました。エアエア。

 

・Today's Highlights 

今日の1ページが封筒からでてきます。

素敵すぎる。やってみたい。

 

ちょっとキッチンテーブルみを感じるようなしうでもないような。

 

なんとなく散りばめられた短文とこのプレゼントから、こざわさんの本を思い出しました。

 

 

まだ全部きちんと読み切れていませんし,練習もまだまだですが、素敵な本だったと思います。欲を言えば表紙とかもう少し耐久性ありそうでオシャ度が高いとさらに良かったです。

 

 

 

え? ハードカバーで再販?

“コイン遊戯人”4人組による作品集!

『Tetra Touch』,CoinLudens,2021,DLC

 

TwitterInstagramSNSで突然現れたナゾのグループ、「CoinLudens」がマジックマーケット2021・春で頒布した動画コンテンツです。

このグループを構成する4人のメンバーが、1人1つずつ自身の作品を実演・解説しています。

 

動画では実演→解説となっており、所々で技法や動きにフォーカスがあたり、それぞれバックビューと字幕で丁寧に解説されています。全体的に動画がオシャレで見やすく、動画のみで十分理解できると思います。

 

さらに動画の最後のクレジットもきちんとしており、どこがどういうふうに影響を受けたのかが載っています。

 

4人の演者全てうまく,綺麗でレベルが高い方々ですが、実際解説されているトリックの難易度は超絶技巧で手が出せません! ということはなく、(結構頑張れば)できる内容となっております。(自分ができるとは言ってない)

 

なお、日本語版、つまり日本語字幕の補足解説付きはマジケ限定となっているようで、今後再販される場合はこの部分は無くなってしまうようです。

動画だけでも理解できますが,日本語補足がないと少し細かいところの理解が難しくなるかもしれません。

 

美しいハンドリングの手品が見たい方、この4人のファンの方、そしてコイン遊戯人の方々におすすめできます。

 

 

 

以下個別作品について。

 

・3FLY+ by風希

笑顔が素敵な風希さんによる3FLYですが、最後の部分で一捻りしてあります。

まずは演技映像で騙されて楽しんでほしいです。初見ぎょっとしました。

 

風希さんは、テクニックや動作自体が綺麗なのはもちろんなのですが、ボディランゲージ(今回だと3枚目のくだりあたりとか)がしっかりしていて、まさに演技、という感じがします。

 

動作の要所要所に細かくサトルティが入ってたり、ディスプレイにぎりぎりまでこだわってたり、さらにともすればこのプロットで軽視されがちな「音」を取り入れてさらにディセプティブになっていたり、よくできた手順だと思いました。

 

 

・Secret Spellbound byたむたむ

やたら上手い人、というイメージがある方です。実際上手いです。そんなたむたむさんによる、テンポよくそれでいて見やすくぬるぬる変わっていくスペルバウンドルーティンです。

 

リズム良く変化するので、ちゃんとできればやってる方も楽しくなってくると思います。

 

裏から見ると楽しい系でもあります。

 

まずやわらか穴あきコインを準備せねば。

 

・Between Cards byラル

Impossible co.から、『エメラルド』という作品集を出されたコインマン、ラルさんによる、2枚のコインの間からコインが次々に現れるという作品です。

本作品集で1番のお気に入りです。

そして多分1番簡単です。

 

2枚のカードを片手でもち、その間からコインが1枚ずつ、計4枚現れます。

これ本当に不思議でした。

 

ふーさんのあれに着想を得たそうで、確かに見た目近いなぁと。

 

以前ご本人に「スリップスルーコイン」も見せていただきましたが、これも素敵でしたし、『エメラルド』も良かったし、これからも追いたい方ですね。

 

・Open Traveler by千歳

以前『hydrangea』という素敵作品集(おすすめ)も出された、千歳さんによるオープントラベラー(のような)トリックです。このトリックだけコインが使われていません。

 

おーぷんとらべらーがあると聞いては買わないわけにも行かず購入の決め手となりました。

そもそも千歳さんのトリックはかなり自分に刺さるので……

 

構成がユニークで,一段目の何もないところに一枚目がプロダクションされるところがかなりビジュアルです。また、最終段で用いられている動作も面白く、他のトリックにもなんかうまいこと使えるような気がします。

 

途中の2枚目を隠すアスカニオスプレッドのバリエーションも綺麗でまた使いでもありそう。

そして全体的に際どい技法も動作も上手くて綺麗(全員共通ですが)。しゅごい。

 

 

 

ただ、これに関しては最初に演技映像をみて、(部分の現象は不思議という前提で)まず「なんで4枚のアレじゃないんだろう」と思ってしまい、そもそも4枚が1枚ずつ飛行するトリックであって、4枚のアレが飛行するというトリックじゃないのかな? と考えてしまいました。

つまり、1枚のコレと3枚のアレを使った手品、ということなのか、と感じました。

 

思うに,MSという考え方と絵札かつそのカード自体にフォーカスされてしまうオープントラベラーというトリックとの相性があまり良くないような気がしました。

Aだったらどう感じたのか、自分でも気になるところです。

 

ビジターならサンドイッチされるカード、Aのオイルアンドウォーターならばスートと色にフォーカスされうるけれど……。

うーむ。どうだろう……。

 

個人的にそこだけどうしても気になってしまいました。

 

 

 

全体的にハイレベルで何かしらの刺激は受けられる作品集だと思います。カード版もなにやらうごめき始めているようですし、どちらも今後がとても気になりますね。

 

 

 

妖異幻界 by K-GO

『妖異幻界』,K-GO,2021,PDF/DLC

 

マジックマーケット2021・春で頒布された、岩手県の若手マジシャンK-GOさんの新作品集です。以前には『Weeds』なども発表されており、個人的にはなんとなくコインマンのイメージがあります。目の前で見せていただい口を下に向けたグラスにコインが入るトリックはくっそ不思議でした。これが雑草ぱぅわぁ。

 

今回はコイン4作品だけでなく、カードとメジャーカップ&ボールなるトリックが1作品ずつ収録されています。このメジャーカップ(カクテルを作るときにリキュール等をはかるための道具)を使ったトリックが本当に素晴らしく、これだけでも観る価値があると思います。

 

解説は無音声の動画のみ(PDFで補足あり)ですが、十分理解できると思います。

 

 

では個別作品について。

 

・K-GO’s Ace Problem

割とシンプルかつダイレクトなホフジンサー・エース・プロブレム。

Aを処理するタイミングが面白いです。また、Aにおまじないをかける部分により、Aっぽさを残しているところがいいなあと思いました。

ただ、Aがトップからポップアップするのは賛否ありそうな気がしないでもないです。

 

・Leakage

前述した、メジャーカップと3つのニットボールを使ったカップアンドボールのようなトリックです。これが本当にすごい。このためにメジャーカップ買ってやりたい。

ご本人はマジックバー勤務ということなので、きわめて自然にこの道具を使えるでしょうし、ごにょごにょも簡単。

 

2段目に、上のカップに入れていたボールが沈み込み下に貫通するという現象がものすごくマジカル。

ご本人も一番のお気に入りとのことで、いやこれは間違いないなと。

全ての動作がほとんど無理がなく構成されていますし、難易度も高くありません。

最後の処理も場合により無理してやることもないですし、完成度高いなと思いました。

 

PDFにはさらに詳しく道具の詳細、セリフや動作の補足、さらには実際に何度も演じてきた経験からのトラブルシューティングのようなTIPSまで載っていますので安心。

 

めちゃくちゃおすすめ。

 

・SpellBound Coin

銀貨からチャイニーズになったり銅貨になったりする、CSBトリックです。

手に完全に1枚だけしかないことを示した状態からいろいろ変わります。

PDFの方で「音」対策のコツに言及しています。

 

・Doppelgänger

Under Spread Coverとは違う、コイン3枚に1枚を隠す技法と、それを用いたワイルドコインのような手順。

この技法は、3枚のコインがすべて1枚ずつ分離した状態でさらにコインを1枚隠しておくことができます。…が、解説を見たときに「フチ」がめっちゃ怖いと思いました。

と思ったらご本人がPDFで触れていまして、技法の制度はもちろんのこと、角度にはしっかりと気をつける必要があるでしょう。

きれいにコインが分かれたときはすごい楽しいです。

 

・CCC

Sを使ったCCC。

自分もSを使ったCCCを考えていたので、PVでこれをみたときに買わねばと思い購入しました。

 

手順はよくできていて、テーブルに置いたチャイニーズコインを1枚ずつリボンから抜けさせられるので、クリーンに見えますし、最後に残ったコインはすべて改められます。

PDFに詳しい演じ方も補足されていますのでこちらも必読。

 

おすすめです。

 

あと全体通してコインがかっこいい。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

以下は少し気になったことです。

 

全体的に実演動画が少し荒かったというか、ところどころ見えたらまずそうなものがチラ見したところもありました。

また実演・解説動画の順番とPDFの順番が違うところもちょっと気になりまして、

動画の演技最初にそれぞれタイトルが表示されるわけでもなく、チャプターがあるわけでもないので、後で見返すときが若干ユーザビリティがあれかなと思いました。

 

あとクレジットはできたらこの部分がこの影響よ、としてくれてたらとても嬉しかった……メジャーカップとか。

 

 

 

と自分を棚に上げつつ書きましたが、最初にも述べたように、Leakageが本当に素晴らしく、仮に残りの作品が自分と合わなかったとしても価値があると思います。

 

やー、いいもの見ました。素敵。

岩手行きたい。

 

 

このコインの穴は画鋲で留めるためにある。

『ORGA/Faster Than Light』,TAKAHIRO,2021,DLC

 

マジックマーケット2021・春で頒布された、「諸行無常」「Time Trip」など、常に独特で新しい手品を考案されている、TAKAHIROさんの新作です。

 

今回は標記の2種類の手品が解説されています。1つは名前の通りものすごく早いアセンブリとリバース。もう1つは画鋲で留めたチャイニーズコインのアセンブリというもの凄いプロットのものです。

 

TAKAHIROさんは、素材を利用するのがとても上手く、「この素材だからできること」で巧みに手品を構成されていると思います。

 

今回のこの画鋲を使ったトリックも、見た目の不可能感がすごく、どのようになるのか、わくわくして演技映像を観ることができました。

(なんとなく板に刺さった釘の移動の手品を思い出しました。)

 

どちらのトリックも、特にORGAの方はシンプルで大胆な解決方法で達成されています。

 

本当にすごい。

まだ見ていない方は、画鋲のトリックだけでも見てほしいですね。

 

ちなみに買い損ねてしまった方は、みんな大好きマジオンで買うことができます。しかも800円。

https://majion.shop-pro.jp/?pid=159510260

マジケでは500円とかいう驚安価格でしたが、今でも800円です。お勧めです。

 

 

 

次回作(も、まだ買えていないリングフライト)も楽しみです。

九州のスターによる変なネタ集第三弾

喪男コインマジックⅢ』,みやもと,2021,PDF

 

マジックマーケット2021・春にて頒布された、九州の若きスター(ただし全裸)のみやもとさんによる、ちょっと変な作品集です。

 

「Ⅲ」とナンバリングされている通り、『鼻ティッシュ』のⅠ、『全裸ーズドリーム』のⅡに続くシリーズの第3弾ということになります。


これまで喪男コインマジックというわりにあまりコインマジックが載っていなかった本シリーズですが、今回はなんと、初っ端に載ってるんですよ。しかも割と不思議なやつが。
こんなことしていいんでしょうか。このシリーズの意義を脅かしかねません。

 

まともにレパートリーを増やしたい……! 

と思っている方にはまったくもってお勧めできませんが、とにかく変な(クソ)ネタに飢えている方、またはみやもとさんのファン、シリーズを揃えないと死んでしまう病気にかかっている方などには大変お勧めできます。

 

まあとはいっても個人的には最初のCCCで元が取れる気はします。CCC好きな方は買ってみても良いのではないでしょうか。

 


以下個別作品について。


・口でやるCCC/口で行う技法各種
コインを口ではさんで行うCCCです。え?
 
ちょっぴり汚いですが、何気にツーアヘッドっぽくなっており、かつ、口でコインを固定することで他に操作が加えられない様にも見え、何気に不思議です。


ここで用いられている口技法は、ステージマジックでも使われている技法の亜種(〇ップ〇ップとかというよりタ〇ギングに近い気がする)ですが、一応これらの技法を使わなくても、この手順は成立しますので、道具をなるべく汚したくない方、自分の身がかわいい方はそのようにしてやるとよいと思います。


最後一枚の部分はクラシックな紐と指輪のトリックに使われているものの応用だと思いますが、ビジュアルに見えていいと思いました。

 

これのジャンボコインバージョンは、見た目のインパクトがすごいのと、コインの穴にアレがアレすることで何気にやりやすい、という微妙な賢さも付随する感じがなんともいえない。


・四十八手フォース
ノーコメント。


・フォールスバニシングシルク
フォールスなバニシングシルクです。
ただフォールスじゃなくて、ちゃんとアレをつかってるところがいいというかなんというか。

 

・ジャンボ胡蝶の舞

デビッド・ロスのやつをジャンボコインでやる。原題はThe Kiteでいいんでしたっけ?

 

・ババ抜き必勝法

クレジット:カイジ。 

「ババ抜きに必ず勝てる方法を見つけたんだ」『……が、ダメっ……!!』

深夜あたりに実演が1番見たいやつです。

 

Green Magicを購入し、スナップディールを練習していた時にできたということですが、普通の人はこれ練習しててもこの手品は生まれないと思います。まさに悪魔的発想……!

 

 

九州の若きスター、みやもと氏の次回作にご期待ください!

あなたとワルツを

『ユージュアルワルツ』,MilliQ,2021,PDF

 

マジックマーケット2021・春で頒布された、「”レギュラーで行うアニバーサリーワルツ”の考察ノート」とかいうなかなかピンポイントなレクチャーノートです。

こういう一点突破で刺さる人には刺さる、みたいなタイプのものこそもっと増えていいと思います。

たぶん作者ご本人はアニバーサリーワルツという手品が好きなのだと思います。

そして表紙がおしゃれ(でもPDFに表紙がなくてちょっとがっかり。)

 

で、内容ですが、

前半、というか大部分は、アニバーサリーワルツという手品の考察に費やされており、

普通の(ギミックありの)アニバーサリーワルツと、レギュラーのみで行うアニバーサリーワルツとは、そもそもプロットとして違ってしまうのだ、と考えたり、

現象や手順を段階ごとに分割し、それぞれに対する観客の受け取り方を考察しています。

こういったことは、テジナをよく浴びているテジナ人なら大なり小なりなんとなくでも皆考えたことはあるでしょうが、このように文章化してまとめたことは価値があることだと思います。

 

ここに考察され、記載されたことが、仮に自分と考え方が合わなかったとしても、

アニバーサリーワルツに対してこういう分割、考え方ができるのだ、また、別の手品はどうだろうか、こういう考えは……? と、何かの始点になりうるのではないでしょうか。

 

また手順については作者ご本人は「おまけ」のようなものとしていましたが、(特別新しいというわけではありませんが)ワントリックとしてはまとまっているのではないかとも思いました。

 

まあ、これを買うような方はたぶん自分なりの、あるいは既にひとつくらいはなんかよさげな手順を持っていると思いますので、それに考え方を取り入れるなり、再度「分解」し、研究してみたらいいのかも。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

以降は気になった点です。

 

まず実際の演技映像ですが、このような社会状況で理想の形で撮ることは難しかったとは思いますが、動き自体が少し荒いように思えました。本文で「スタンディングでやれないか」をよく考えるとありましたので、作者ご本人はおそらくよくスタンディングで手品をされるのだろうと思いますが、動画で見る限りでは体がよくふらついていて、セレクトカードを見せるときなどもカードが定まらず落ちつきません。テーマ的にはもう少し落ち着いた演技のほうが合いそうだなぁと個人的には思いました。

 

また、本文途中で「スリップカットフォース」とされているところも、読みながら疑問に思ったのですが、演技動画を見るとやはりスリップカットフォースではないと思いますので、これは表現を変えた方がよさそうです。単にリフルフォースで解決できそうですし。

(もちろん演技動画をみればどのようにしているかはわかるのですが……。)

 

ほかに文章が変なところで改行されていたり、文字数がちょっと変だったりで少し読みづらさもありました(人のこと言えない)。

 

とはいえ500円ですし、これからもこういうピンポイントな感じで自身の考察をつらつら言語化して書いてくれる方が増えてきたら楽しいなぁと思いました。

 

 

台場のんと奇妙なテジナ

『黒魔道会活動記録【問題編】・【解答編】』,S.Takeyama,2021,PDF

 

マジックマーケット2021・春で頒布された世にも珍しい、テジナの種ハウダニット短編小説。まず【問題編】が0円で1日目に頒布され、2日目から【解答編】が500円で頒布されるという珍しい形態。

 

まずこの新しい試みとその内容がマジックマーケットというか、同人ぽくて最高ですね。

内容は主人公の「私」、とかわいいヒロイン?の「台場のん」ちゃんが、「マジハラ先輩」ともいわれる先輩が行った手品の種を考える、といった構成になっています。

ご丁寧にヒントや誘導があり、【読者への挑戦】まであります。

 

この小説内で行われているテジナは実際に可能であり、それでいてすごく難しい操作を要求されるわけではありません。1ネタ500円(小説付き)ともいえるかもしれません。

小説自体はとてもよくできていて、単純に読むだけでも楽しいと思います。

 

 

トリックについては詳しく触れるとネタバレになってしまうのでここでは触れませんが、普通にいいトリックだなぁと思います。作者さんをよく知るGさん(仮名)によると、以前作者さんが発表したトリックのセルフ改案説が濃厚だとか。

 

私の方はというと、何日か考えてようやく答えっぽいものにたどり着くことができました。あと1枚がわからなかったんですよね……。【解答編】を確認したところ、完璧ではなかったですが、9割方あってたのでよしとします。

 

とにかく、おもしろい手品のトリックを覚えつつ、小説まで読めるとてもお得な一品なので、機会があればぜひご覧ください(再販予定は不明ですけど)。

 

 

◇◆◇

 

どうでもいいことなのですが、この「台場のん」ちゃん、もちろん元ネタは偉大なるプロフェッサー・ダイ・バーノン氏から来ているわけですが、実は私もだいぶ前にマジシャンの擬人化(?)小説いけるかなと考えてた時の主役のうちのひとりと完璧に同じ名前でした。

そのとき考えてたタイトルは「台場のんの奇妙な冒険」。

元ネタはもちろんアレで、能力名は「フール・フーディニ」(小さなことだけれど、必ず相手をだますことができる能力)。近距離パワー型です。