ten little tricks
『ten little tricks』, こざわまさゆき, 2017, 書籍
マジックマーケット2017で頒布(正確にはもう少し前から)された、奇術研究家こざわまさゆきさんの作品集です。
名前の通り、10個の手品と、ボーナスで3つのアイデアが収録されています。
内容の前にこの本の装丁についてなのですが、これがまぁとてもいいのです。表紙はおしゃれなコーティングされた白色厚紙で、タイトルが銀文字でかかれています。それに手触りの良いソフトカバーが掛けられています。
文字もなんだかおしゃれだし、紙の色も真っ白じゃなくて目に優しい感じだし、なんかもう全体的に素敵です。
いつかはこんな本作りたいと思わされる一冊です。
外側はもう言うことないので内側にいきましょう。
・Counterfeit
Weight Guessプロットに贋金と天秤のパズルを取り入れたもの。簡単で、話も面白く、そしてちゃんと手品になっている傑作です。
皿を二枚買いましょう。
・Ambitious Royal
古典的な絵札のアレとこれまたクラシックで有名なディスプレイを用いた、2枚が上に来るアンビシャスカード。
不思議さは低めですが、多分ちょっと手品知ってる人も一瞬、あれ? ってなると思います。
あのディスプレイ、僕の利き手の関係上普通よりスムーズに示せることもあり、とても使いやすい手順です。
練習曲として良いと思います。
・Magician vs. Gambler vs. Mathematician
全三段からなるファイブカードモンテのような手品。モンティ・ホール問題を取り入れ、ちょっとアカデミックな作品に仕上がっています。
スイッチがネックですが、個人的には好きな作品です。モンティホール問題について理解が及ぶ人に対してでないと演じにくいですが……
・Hide a Leaf
「葉を隠すなら森の中」を題材にした作品。
最終段の「森がなければ……」がなかなかにインパクトがあります。ヤマギシさんのアイデアとしてフォルスドローが使えるとのことで、確かに良さそうで、自分がやる場合はこちらを使ってます。
・Process of Elimination
いわゆるビドルトリックについて、手順のある箇所の不自然さに着目した、パターと演出のアイデアです。
手品人が一度は感じるあの不自然な部分にうまく説明をつけていて、個人的には好みです。
が、一方で話が多く、くどい感じもあるようです。そもそも見せた相手のほとんどが例の部分を気にしてないことが多く、これくらいならさっとやってほしいという感想もありました。
・Six Card Brainwave
名前のとおりの手品です。6枚に減らし、さらにサイコロとあわせるというアイデアがきいています。ありそうで無かった(と思う)小品。台詞まわしがメインですかね。
透明なサイコロがきれい。
・Subliminal Effect
やってることは単純な予言というかストップトリックというか。
しかしサブリミナル効果という演出を入れることでなんかそれっぽい感じに仕上がっています。
サブリミナルなのだからやっぱり表向きでやりたいなぁ。
・Following
簡単なフォロー・ザ・リーダー。この手のプロットは不思議に思えたことが無いのですよね……。
・Red Ocean & Blue Ocean
拗らせてしまった人のための二色のカードアクロス。
といってもそこまで難易度は高くなく、そんなにマニアックでもない気がします。
アクロスというとなんとなく2枚は飛行させたいです。このやり方でも2枚飛行させられるのですが……。
・A Tale of Ten Traveler
10人の旅人をひとりずつ9部屋に押し込めるという、有名なパズルを題材にした作品。
不思議かというとなんともいえないところですが、もやっとした感じは残りそうなそんな作品です。
本編は余録にあるといってもよいほどクレジットや参考書きが充実しており、読み物として面白い。(これはこの作品集全体を通していえることではあるのですが)
Bonus
・Ideal & Reality Deck
インビジブルデックの結婚式に使えるアイデア。
とってもすばらしいアイデアで、ボーナスなのがもったいないくらいです。
早速使わせていただきました。
個人的にはこれとCounterfeitだけで相当価値があったと思います。
・Two-person Zero-sum Game
二人零和有限確定完全情報ゲームの考えを手品に持ち込むというアイデア。
このこと自体は聞いたことはありましたがこれが手品になるとは。
これからなにかに発展しそうな気配は感じます。気配だけかもしれませんが。
参考になりました。
・The Gift of the Magician
ぜんぜん不思議じゃないけどとても素敵な贈り物になるかもしれないポテンシャルを秘めまくっている手品。
こざわさんは「どうかとおもう」と書かれていますが、最近これで誰かにプレゼントした某カップルのこととか考えますと、この手品は最高なのではないでしょうか。
僕は好きです。
ところでこの本はこざわさんの作品集の2冊目に当たるのですが、すでに3冊目を書き始めているとか。その中にはつい先日盛り上がった超傑作トリックのピアノトリックもあるとかないとか聞きました。
これからもS級クリエイターであるこざわさんの作品集を期待しております。