テジナの泉

手品関係のほぼ自分用備忘録として。

strawberry

『strawberry』, 園内五果, 2017, 書籍

 

去年のマジケで販売された、園内五果さんの約50頁ほどの本です。

"Matching the Cards"(以下MTC)というプロットにフォーカスした作品集で、色々な視点からMTCを構成し、その7作品を解説しています。またボーナスとして2トリック、別のカードマジックも収録されています。

 

園内さんも書中で触れていますが、MTCというプロットは、

「裏向きで1枚カードが選ばれ」

「そのカードと同じ数字のカードを後3枚出してみせるといい1枚ずつ出現させ」

「が、最初の1枚の表を確認すると、今まで出してきた3枚のカードと同じ数字ではない!」

「と失敗したかと思いきや、いつの間にか出してきた3枚のカードの数字が最初の1枚と同じものに変わって無事成功!」

というような手品です。

 

このプロットは個人的にはなかなか好みでして、マジケ価格500円ということもあって即決で購入しました。

 

プロット上、基本的にはセットが必須なのですが、セットアップを簡単にする流れを説明している手順もあり、全体的にすごくよく考えられているなぁと思いました。自分ではこんなきれいに手順をつくれそうにありません。

以下各作品の感想を簡単に。

 

・Shingleback Skinks

 ジェミニ・ツインズの原理を使ったMTC。難易度は途中で一箇所だけ少し難しいと思われる部分がありますが、基本的には簡単です。

 個人的にはジェミニ・ツインズに代表される、ディールアンドドロップの手法を使うときにはせりふ選びが難しいと思っていて、パケットで分けられたあと、「ここが選ばれました」というのはちょっとウソが混ざってしまうので、あまり言いたくありません。そういったせりふの部分については、たとえば「好きな枚数配ってとめてもらいましたが、その結果どうなったか、見てみましょう」などウソをなるべく避けた言い回しをした方が違和感がなくなりそうな気がしています。

 また最後のオチに持っていく、「ここで分けられたということは~」のくだりも単純に「上でなく下でした」くらいでもいいかもしれません。トリックの構成自体はうまくできていると思うのですが、KもAもそれぞれトップとボトムに綺麗にそろってしまうことが逆に「どうやってもそうなるのでは?」という感覚を起こしてしまいそうです。

 

・Collecting the Cards

 コレクター要素があるMTC。どっちかというとコレクター要素のほうが強めかも知れません。セットが若干面倒ですが、これもよく構成されていて面白い作品でした。

 最後に本命がそろう流れが好みです。

 あ、解説の5から6にかかる部分でパケットを左手のディーリングポジション(など)に持ち直す記述が抜けている気がします。

  
・Fixed Match

 Do As I Do要素のMTC。まずDo As I Doの部分が面白いです。セットも前2作品と比べると覚えやすく、単純というのがいいところ。

 一方で技術的には前2作品と比べるとやや難しいです。が、そこもよく考えられており、Do As I Doである点を活かし、技法のタイミングでミスディレクションなどがかかり、結果的に技法もやりやすくなっています。

 

・Last Match

 ご本人も触れているとおり、ラストトリックのバリエーションといえるのではないでしょうか。MTCとしては現象が弱めです。枚数少ないので当然ではあるのですけど。

 

Flash Match

 この作品集の中で3番目に好きな手順です。失敗したかと思いきや気づくと成功している系のトリックで、セットも単純、手順も簡単で演者への負担が少なめです。MTCの入門手順としてよさそうな気がします。

 
・Fault and Faint

 こちらもいつの間にか系要素があります。セットが単純で、手順もきれいにまとまっていて、この作品集の中で2番目に好きな手順です。途中の厚みが気になったり、技術的に少し練習が必要ですが、最後のオチ含めいい手順だと思います。

 

・Snowcap

 この作品集で1番好きな手順です。MTCでなかば必須なフォースをうまく解決しています。ゆうきとも氏のセブンイレブントリックを思い出しました。セットも複雑でなく、技術的にもやさしくて、とてもすばらしい作品だと思いました。好き。

 

Bonus

・The Old-maid Trick

 ババ抜き仕立てのスーパー不思議セルフワーキング手品。演者が後ろを向いている間に色んな操作をした後でもババ(ジョーカー)の行方を演者がぴたりと当てちゃいます。実際に見せていただきましたが初見しゅごい不思議でした。

 悪い点は手続きがかなり長いこと、運よくあたっちゃいそうに見えることでしょうか。手品してる人には相当不思議だと思います。原理ものはいいぞ……。

 

・Strawberry on the Shortcake

 イチゴのケーキの、イチゴをいつ食べるか? という質問をテーマにした、3枚のカードあてです。

 手順の中で演者がくわえたカードをお客さんに渡す部分があるのですが、ご本人も触れていますがこの部分はないほうがいいと思います。やはりあまりいい気分はしないと思うので……。

 

 

合計9トリックで小さい冊子(しかも500円)とは思えないほど濃厚な本でした。

クオリティも高いものが多く、レパートリーにしたいものもあり、大変素敵な本だと思います。正直トリックとしては、The Old-maid Trickだけでも元がとれる気もします。

もちろんMTC好きな方にはいいと思いますし、興味がある方は是非、買って読んでみてください。

 

 

…といっても今絶版なのですが、風のうわさによると次のマジケで新作とあわせてこのstrawberryも再販またはその内容が収録されるとか。

 

楽しみにしています。